大河はトレンディに流れちゃいけないと思います

ほとんどテレビを見ない私だが(最近この導入ばっか)、それでも毎週欠かさず見ている番組が、ただ1つだけある。

NHK大河ドラマである。

今年は上杉家重臣直江兼続を主人公とした「天地人」が放送されている。主演は妻夫木聡だ。

ここ数年、というか物心付いたときから鑑賞してきた気がするこの大河ドラマなのだが、いよいよ視聴を放棄するかもしれない。自分にとってはそれほどの出来なのである。

では何がいけないのか。キャスト? 脚本? 設定? 主人公がマイナーすぎるの? どれも多かれ少なかれ妥当しているのだが、最初はキャストがダメなのかな、とそう思っていた。

誤解の無いようにしっかり申し添えておくと、ダメなのは2人しかいない。阿部寛上杉謙信はもう謙信そのもので、上杉家中の脳筋武将たちもいい味を出している。羽柴秀吉を演じる笹野高史は、これはハマリ役だぞ、とさえ思う。吉瀬美智子はすんげえ美人だし。

悪いのは吉川晃司の織田信長である。あえてよく表現すればそつがない、悪く言えば平凡に過ぎる。今までの大河なら、信長にはかなり明快な特徴づけがなされていた。渡哲也の信長は従来の冷徹一辺倒のイメージを修正したと思うし、反町隆史の信長は兄貴分的でかっこよかった。舘ひろしの信長は狂気染みていて恐ろしく、あのいっちゃった目つきが忘れられない。

翻って吉川信長はちょっと普通すぎる。毛利両川一方の雄、戦国時代の名将吉川元春の子孫らしいね、この方。まあドラマにはあんまり関係ないけどさ。

けれど百歩譲って信長は我慢しよう。耐えられないレベルじゃない。

しかし、長澤まさみ演じる初音なる架空人物には堪忍ならん。ドラマにいらんだろ、この人物。

長澤まさみは確か前にも大河に出ていた。「巧妙が辻」だったと思うが、そのときも架空の人物の役だった。なんだ、NHKのお偉いさんに長澤まさみのファンでもいるのか。せめて実在しない役どころでもいいから、彼女を出してくれ! と懇願しているのか。これぞ特権濫用だ。

長澤まさみって好きでも嫌いでもないんだけどさ、「腹に一物(背に荷物)」という気持ちを唇の端を上に吊り上げることだけで表現するって、女優としてどうなの。両手を胸の前で交差するように当てて「あー、びっくりした」っていうのと同じ水準じゃないか、これ。

だが、これもまあいい。耐える。ぼくは耐える。堪忍袋の緒をピアノ線にして努力する。


これをいっちゃあおしまいなんだけどさ、やっぱりなんだろう、「トレンディ」というどうとでも説明の付くところ(それゆえに何も解明してくれない)へ行き着くのだろうか。

出演者(の一部)もさることながら、脚本の非・戦国ぶりが目立つ。加えて話の筋もめちゃくちゃ。展開もベタベタ。

ということはトレンディドラマになってもたぶんこれ、ダメだろう。大河ドラマというブランドに寄り掛かって惰眠をむさぼってるな。逆に言えば、大河だからまだ20%なんていう信じられない数値を出してしまうんだ。


NHKのやりたいことは理解できる。NHK大好きのお年寄りと、歴史・時代考証の誤りを探しだすことに執念を燃やす歴史マニアしか見ない大河を、もっと幅広い年齢層に見てもらおうと、特に若者にね、そう考えてるんだろう。

しかし、このキャッチオールの目論見は失敗している。視聴者層の多様化・拡張という狙いが、視聴者層のシフトになってはいまいか。つまり下手にトレンディへ走ってしまったことで、コアなファンを離反させるばかりか、新規の視聴者にも愛想を尽かされかけている、というオチが見え始めた。

それを大河ドラマと同等かそれ以上に感じさせるのは、紅白歌合戦である(でも昨年のはよかった)。

それはともかく、キャッチオールを目指すにしては、網の目が粗すぎる。

NHKはこの辺りで立ち止まって、自分たちの対外イメージというものを再確認したほうがいい。誰もNHKに民放的なトレンディだとかエンタメだとか、そういう役割は期待しちゃいないんだよ。

クラスで目立たない男子が髪の毛を金髪に染めて耳にピアスを嵌め、スラックスを下げに下げてイメージチェンジを図ったけれど、でも中身は変わらないから違和感ありまくりで不自然で無理があるよね、というのと同じ構図だ(どんな構図だ)。


テレビ電波の受信機を持つ全ての世帯から受信料をいただいている以上、より多くの人に見てもらえる番組作りを目指す、なんて、聞こえはいいが要は詭弁だ。願望の内部に矛盾を抱えており土台実現不可能である。

キャッチオールという夢物語を追う前に、受信料制度を今一度根本から再考すべきじゃないのかな。


民放の視聴率競争にNHKまで追随しなくていい。NHKNHKらしさに忠実であればそれで万事OKなんだよ。それは「NHKスペシャルニュース7」的なものね。

NHKというのはああいう民放的なものに虫唾が走る人間たちにとっては最後の砦、最終防衛線だ。それがなし崩し的に突破されていくとき、人々のテレビ離れはいっそう加速する。


原点回帰って、大切だよ。



【追記】でも大河そのものがダメなんじゃなくて、今年の大河がダメなだけかもしれない。そしてぼくだけがダメだと思っているに過ぎないのかもしれない。