みたび、田母神氏
昨年の暮れ、12月の29日だったと思うが、テレビ朝日の「TVタックル」に田母神前航空幕僚長が出演した。
大きな話題となった割には全くと言ってよいほどテレビに姿を見せなかった田母神氏であるが、この日はその田母神氏が番組に出演するとあって、非常に楽しみにしていた。
出演は後半からだったが、それまでの番組内容は全て田母神氏の出番までのつなぎであったとすら言える。
それほどまでに田母神氏出演への期待は大であった。
結論から言うと、この期待はよい意味で裏切られた。田母神氏は予想以上に興味深い人物であったし、田母神氏の居た番組後半、色々なことを考えさせられた。
田母神氏が出演された今回のTVタックルで、もっとも印象に残っているというか、強く記憶しているのは、氏のこのような発言だった。
「でも(自衛隊は)大した組織だと思いますよ。行けと言われりゃあ機関銃一丁でどこへでも行くんですから」
この言葉は示唆的である。
純軍事的には、比較的軽い装備で戦地へ赴くことは、危険以外の何者でもない。また交戦法規、要するにいつどういう時に交戦が可能であるか、というルールも極めて曖昧で頼りない状況では、派遣された自衛隊員は非常な危険に晒される。
問題はこういうことの是非ではない。海外派兵される自衛隊は重武装でがんがん戦闘して来い、と言うつもりもない。
つまりどういうことか。繰り返すが、重武装の敵が待ち構える戦場へ、貧弱な装備で交戦法規の規定もままならない自衛隊が向かうということはとてもリスキーである。
自衛隊がこういった立場に置かれる一方、他方できちんと任務を果たして来いと政治家に命令されるというのは、かなりアクロバチックなパフォーマンスを自衛隊は求められているということに他ならない。
重要なことは、われわれ国民がそういう芸当を自衛隊に求めているのか否か、ということだ。
憲法9条に象徴される日本の平和主義というあり方を堅持していくため、こういう曲芸を自衛隊に強いることを国民は選択してきたのだろうか。
選択以前に、政治家も国民も、こういう問題系から目を逸らしてきたというのが現実ではないのか。
自衛隊は言わば、こういった政治のツケを体を張って払わされてきた。そしてそのツケは、遠からず私たち自身にも重くのしかかってくるのではないだろうか。
幸いなことに、イラクやインド洋を始めとして世界各地に自衛隊は派遣されてきたが、敵勢力との交戦による殉職者というのは、出ていない。しかしそれは、単に運が良かっただけの話である。
そして今、ソマリア沖への派兵問題がにわかに浮上してきた。
給付金の影に隠れてこのまま進行してしまいそうなこの問題。解決せねばならない大きな課題をいくつも抱えながら、なし崩されるように進む海外派兵。それと並行して中身をぬえのように変容させていく日本の平和主義。それを座視すらしない平和ボケした国民。そして一緒に呆ける政治家たち。