「解散先送り」と「後期高齢者医療制度」について簡単に考える

月曜日に入って国内の主要メディアは一斉に「衆院選、越年論強まる」といった見出しで速報を打った。

日本経済新聞は更に一歩踏み込んで、麻生首相が与党幹部に解散先送りの意向を伝えたという内容の記事を配信した。

10月冒頭に解散するという当初思い描かれていた戦略は修正に修正が重ねられ、ついには越年がほぼ確実な情勢となったようだ。その理由としては、米国発の金融危機とそれの実体経済への影響を挙げる見方が多い。

ただ日本は金融危機の影響が先進国の中でもっとも軽微な部類に属す。野村證券は破綻したリーマン・ブラザーズの欧州・アジア部門を買収し、三井住友銀行はゴールドマンサックスの増資要請に応じる姿勢を見せた。

国内の景況感が悪化しているとすれば、その原因は「直近の」金融危機ではなくてむしろ食糧価格やエネルギー価格の高騰、あるいはサブプライム危機に端を発する米国内需の落ち込みによるものである。もちろんこれらは今に始まったことではなく、前々から懸念されていた。

解散が見送られた決定的な理由は、麻生首相を以ってしても自民党の総選挙での敗北を防ぎ得ないことが明らかになった点にある。

周知のように、米大統領選は1日たりとも延期されない。今回の金融危機は米国産であるにも関わらず、だ。

自民党の行った衆院選の情勢調査において、連立与党が獲得議席過半数にすら遠く及ばない可能性が濃厚であるという結果が出た。ここへうまい具合に金融危機が重なり、麻生首相は解散を先送りする格好の口実を得たのだ。その意味で金融危機は、危機はおろか恐慌ですらなく、自民党にとってはまさに願ってもない天佑だったと言える。

それにしても、自民党麻生太郎を首相に担ぎ出せば本当に選挙で勝てると思っていたのだろうか。就任直後に行われたマスコミ各社の世論調査では、総じて自民党の期待は裏切られた。これも選挙の先送りがほぼ決まった要因の1つだと思われるが、なによりこれらの報道から窺われるのは、世論への感度が鈍りに鈍りきった自民党の姿である。



話題は変わって、後期高齢者医療制度

この制度への批判が止まない。いわく「高齢者は早く死ね」「厚生官僚の陰謀」「姥捨て山」「年寄り切捨て」などなど。

感情的な非難が目立つが、これらの批判は果たして的を射ているのだろうか。自分もこの制度に詳しいわけではないが、少し冷静になって考えてみよう。

後期高齢者医療制度については頻繁に「後期高齢者をそれ以外の国民から切り離した」医療保険制度と言われる。

これは正しくない。

後期高齢者医療制度の財源は、国や市町村の負担が5割、後期高齢者の自己負担が1割、そして残りの4割は、国民健康保険や健康保険からの後期高齢者拠出金によって賄われている。

しっかりと(若者が保険料を納める)他の保険からその財源が支出されているのだ。これのどこが切り離しなのか。

切り離し・独立という言葉からは、あたかも後期高齢者の支払う保険料でのみ制度が運営されるかのような印象を与えかねないが、それは間違いである。

こうして国・他の公的医療保険後期高齢者の自己負担できちんと支え合うシステムなのだ。

またこの制度へは「保険料が上がった」という不満が寄せられている。

これは確かに、上がった人は上がっている。ただその数は少ないのが現状である。トータルで見れば多くは保険料が下がっている。

保険料が増額された人の大半は、大都市に住む後期高齢者である。彼らにはこの制度が創設される前に加入していた国民健康保険において、保険料の負担を軽くするための支援が大都市の自治体から独自に与えられていたのだ。

制度の移行に伴って、この支援措置が廃止された。ゆえに保険料が上がってしまったのだ。

医療サービスを受けるからには、高齢者といえど所得や財産規模に準じて応分の負担が必要であるとぼくは思う。ただそれを国民年金だけで生計を立てているようなお年寄りにまで求めるのは酷である。

ここにおいては現行よりも更に適切な減免措置が必要であろう。

では、国民年金からの保険料天引きという批判に対してはいかに答えるべきであろうか。

これは、天引きがいやなら口座振替やもしくは郵便振込に変えればいいだけの話である。いずれにせよ保険料が徴収されるのなら、天引きでも口座振替でもさして変わらないと思うのだが、いかがだろうか。


この制度は結局のところ、そこまで苛烈な批判を受けるような代物とは考えられないのだ。もう一度、冷静になって考え直して見る必要がある。

感情的な批判の応酬からは何も見えてこない。きわめて不毛である。


ネーミングには確かに問題があった。いかにも役人らしい無神経さである。

制度の周知も十分ではなかった。これが誤解に拍車をかけてしまったおそれがある。

また制度がスタートしたときの政治環境も最悪だった。社会保障制度への不信が高まった中での施行であった。

保険料の二重徴収などの相次ぐ手続きミスには開いた口が塞がらない。しっかりしろ。


とにかく、マスコミが問題をかき乱すのは不愉快至極である。