大量殺戮の話
午睡から目を覚まして、しばらくベッドの上でぼんやりしていた。
少し寝すぎてしまったか、これでまた夜に眠れなくなるなあ、などと思いつつ部屋の白い壁を眺めていると、1匹の羽蟻が目に入った。
ふーっと息を吹きかけて追い払う。蟻をつぶすと蟻酸のせいで手が荒れるから、あまり手荒なことはしない。
本を読んでいて眠ってしまったから、読書を再開した。するとまた羽蟻が視界に入ってきた。本に着陸したが、すぐに払いのけた。
ところがまたもや蟻がやってきた。これはおかしい。おもむろに壁へ目をやると、壁一面に羽蟻がびっしりとはりついているではないか。
不吉な予感がして今度は電灯に視線を向けると、無数の羽蟻がその周りを飛びかっていた。
その様子にしばし呆然とした。
壁や電灯だけではない。部屋にある服やテーブル、洗濯物にいたるまで無数の羽蟻に占拠されていたのだ。
完璧な奇襲攻撃だった。
こうしてはいられない。われを取り戻し、すぐに反撃に移る。
コロコロを使って地上の羽蟻を一掃した。都合3回、粘着テープを取り替えた。白いテープは蟻の死骸に埋められた。
電灯周りの羽蟻は扇風機によって撃墜した。そして地上に落下したものをコロコロで巻き取る。
こうしてなんとか部屋はいつもの平静な様子を取り戻した。
そして今、机の電灯に残存した羽蟻たちが結集し、ぼくへの反撃の機会を伺っている。
熱い電灯に触れて墜ちた蟻を一所に集めると、これは凄惨な光景だった。いうなれば軍隊の大量虐殺にあった村民という風だ。
まだ生きているものは他の亡骸を踏みつけてそこから抜け出そうとするも、大方その途中で力尽きているようだった。
しかしどうしてこうもこの部屋には羽虫が大量発生するのか。嫌だ嫌だ。