上原隆さんというコラムニストがいらっしゃいます

久々の大当たりだ。とはいっても宝くじや競馬ではなくて、それは本。

上原隆さんというコラムニストの手になるエッセイ集。ぼくはこの上原さんを一体いかなるきっかけと巡りあわせで知りえたのか、まったく思い出せない。

ウェブ上であったことだけは間違いない。

googleで検索しても13000件程度のヒット数だから、そこまで有名というほどでもない。おまけにはてなダイアリーにも登録が無い。

しかしこういう方法でその人の知名度を測ろうとするあたり、完全にネット社会の住人だね、ぼくは。


自分は今まで、中身の濃ゆい文章を書くには、その技法よりもまず問いをいかに設定するかが大切だと思っていた。

いい問いかけができなければいい文章は書けないと、そう考えていた。

今でもこれが間違っているとは思わないが、どうもそれだけじゃないらしい。


上原さんのエッセイに登場するのは、ほとんどすべてが普通の人々。

プロ野球選手とか、政治家とか、カリスマ経営者とかの類はお呼びじゃない。

そういった市井の人々の日常の風景、その人がそのとき何を考えどう動いたのか、それを淡々と綴っていく。

解説を寄せる渡辺一史さんも言うように、うまいんだかへたなんだかわからない文章をこの人は書く。

うまい・へたで言えばうまいのだろうけど、こういう物差しを持ち出すことは、上原隆の文章を語る上であんまり意味は無いと思う。あれ、呼び捨てになった。

小学生でも使えそうな言葉ばかりをつかって、誰にも真似のできそうにないエッセイを紡ぐ。

書き過ぎず、だけど舌足らずでもない。登場人物の有り様がなぜかありありと目に浮かんでくる。

1つのエッセイを読み終える頃には、すっかり情景を思い浮かべて感情移入してしまい、目頭が熱くなることもしばしば。


ああ、これは「ぼくらの物語」なのかもしれないと、そう思った。

自分の過去、現在、そして未来にかけて、きっと体験している、あるいはしていくであろうそんな物語。

普通でいないと経験できない体験。


それを綴ったのが、上原隆のコラムなんだろうか。


もっと上手に文章で表現して上原さんの素晴らしさを語ることができればいいんだけど、下で書いた様なこういう嫌味で小市民的なすすめ方しかできないのが不愉快だなあ。

ぼくは学生時代に今まで何百冊という本を読んできたと思うけど、こんなにも人に勧めたい本と出会ったのは、これがはじめてだ。

10冊の岩波文庫より1冊の上原隆、と言ったら言い過ぎか。

友がみな我よりえらく見える日は (幻冬舎アウトロー文庫)

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雨にぬれても (幻冬舎アウトロー文庫)

雨にぬれても (幻冬舎アウトロー文庫)

喜びは悲しみのあとに

喜びは悲しみのあとに

産経新聞の紹介記事→http://sankei.jp.msn.com/culture/books/071116/bks0711160742000-n1.htm

さすがは新聞記者、というご紹介。


注:『内定者の発想〜』シリーズを執筆されている、ギラギラした上原隆さんとは同姓同名の別人です。くれぐれもお間違えの無いよう。