「安倍晋三政権復活計画要綱」

拙稿はまたしても、ゼミの指導教官よりの課題です。前回にも増して、適当度(もちろん、ふさわしいとかちょうどいいとかいう意味ではない)に磨きがかかっております。

では、加筆・修正を施しましたこの文章、どうぞお読みください。





率直に言って、安倍晋三氏(以下、安倍氏)を再び首相の座に就かせることは、至難の業と言わざるを得まい。あの引き際において安倍氏は、首相としての任期と同時に自身の政治生命にまで終止符を打ってしまった、と言っても過言ではない。それほどに、鮮やかさとは程遠い引き際であった。

しかし、安倍氏が指し示したこの国のかたちと未来に、筆者は希望を抱かずには居られなかった。真正保守の退潮いちじるしい昨今、それが今や一縷の望みであると言っても誇張とはならないだろう。安倍氏が政界においてその影響力を取り戻し、再び首相の地位を回復するための具体的な計画をここに立案し、最終目的である安倍晋三政権の復活を目指す。

 

戦後日本政治史を俯瞰すると、首相就任の基本パターンには大きく分けて2つあることが分かる。まずその大多数を占めるのが、国政選挙における敗北やスキャンダルなど、何らかの政治責任を取る形で首相が辞任し、新しい首相が就任するというものである。これを便宜的に「引責辞任モデル」と呼称する。この引責辞任モデルの場合、前者とは異なる政治理念を持つものが首相に就任する傾向があることには注意を要する(田中角栄内閣から三木武夫内閣への政権交代はその典型)。

実例こそ少ないけれども、無視できないパターンとしてもう1つ挙げられるのが、首相が任期を満了して後継者へ禅譲を行うというものである。中曽根内閣から竹下内閣、小泉内閣から安倍内閣がその典型である。これも同様に「禅譲モデル」と呼称する。この禅譲モデルにおいて、前任者と異なる政治理念を持つ場合は後継に指名されにくいと思われる。そのほか、戦後日本ではこれに該当する純粋な事例は見当たらないものの、取りうる手段として考えられるのは、時の政権を力ずくで崩壊させて強引に首相ポストを奪取する、言わば「放伐モデル」とでも呼ぶべきものである。

福田政権にこれらの分析モデルを適用してみよう。まず思想信条が福田氏と安倍氏では異なるため、禅譲モデルの妥当性は低い。ただ現在の流動的な政局においては政権自体の行く末が極めて不透明であるため、引責辞任モデルは前者よりも実現の可能性が高いと思われる。しかし何よりまず考慮すべきは、9月の自民党総裁選において大方の予想を上回る善戦を見せ、また特徴的なキャラクターによって国民からの支持も非常に高い、麻生太郎氏の存在であろう。引責辞任モデルの場合、確実性が高いのは安倍氏よりも麻生氏の首相就任と考えられる。しかしここで何らかの工作を行い麻生氏の追い落としを図るというのは、拙速に過ぎる。福田首相を辞任させ、かつ麻生氏の影響力を排除できたとしても、安倍氏の現在の状況を考えれば、総理の椅子が回ってくる可能性はほぼ皆無である。よって安倍氏に「放伐モデル」を適用するのは困難であり、むしろ目下の次期首相候補最右翼である麻生氏と良好な関係を築いておくことが望ましい。

安倍政権を可能な限り早い時期に実現するためには、まず福田首相の速やかな引責辞任が必須であることが上記のモデル分析から明らかになった。幸いと言うべきか、今年の年末から来年の7月にかけてのある時期に、まず間違いなく衆議院解散総選挙が実施される(筆者注:この原稿を執筆した段階では、そういった憶測がかなりの蓋然性のもとに飛び交っていたが、現段階では任期満了選挙もありうるという見方もでており、選挙時期についてはなお予断を許さない状況にある。また更に、福田首相で選挙を戦うことは無い、という観測まで飛び出している。)。そこで自民党を、公明党との連立によって何とか政権を維持できる数にまで、具体的には210(これ以下だと連立政権を維持できない可能性が高まる)〜240にまで議席を減少させる。これによって福田政権を退陣に追い込み、麻生政権を誕生させる。

ここからが重要であるが、麻生新政権において、現在は官房長官が兼務している拉致問題担当相に安倍氏を起用する。そして麻生首相と安倍担当相のリーダーシップにより拉致問題解決への具体的な道筋を示すことによって、失われた国民的人気を安倍氏が取り戻し、次期首相就任への弾みとする。麻生首相は2009年に衆議院を解散して選挙戦に勝利し、第2次麻生内閣を組閣、ここで安倍氏を重要閣僚に起用して更に箔をつけさせることで、次期首相の座は一段と近づくことになろう。麻生氏は同年に行われる自民党総裁選挙においても無投票で再選、残りの任期である3年を全うし、ここにおいて安倍氏禅譲を果たす。安倍政権の復活、そのXデーは西暦2012年秋。そのとき安倍氏は、まだ58歳である。

この戦略における要諦は、1.福田首相の可及的速やかなる退陣 2.麻生政権の誕生 3.安倍氏拉致問題担当相への起用及び第2次麻生内閣における重要閣僚への起用 4.安倍氏に国民的支持を回復させるような治績を上げさせる 5.麻生内閣を長期安定政権とし、禅譲への流れを形成する 6.麻生氏から安倍氏へ確実に禅譲を行う この6つである。中でも計画の遂行において特に重要なのは、福田首相の早期辞任であろう。上記で示したのは、次期衆院選において自民党を絶妙な敗北に追い込むことで引責辞任へ誘導するというプランであったが、首相を辞任に追い込む方法は何も国政選挙の敗北によるものだけではなく多種多様であり、安倍政権の復活のためにはいかなる手段であっても検討すべきだ。

ここで少し触れておきたいのは、安倍氏拉致問題担当相に起用する理由である。まず、安倍氏が再び首相に就任するためには、実績を挙げることで失われた支持を回復させることが肝要であると思われるが、そのためには閣僚に就任することが近道であるという点がまず1つ。また拉致問題は国民の関心も相当に高く、そういった点でセンセーショナルな実績とそれによる声望を獲得しやすいという点が2つ目。更に、他の閣僚ポストでは国民の了解を得づらいが、拉致問題担当相であれば、拉致被害者・家族から大きな信頼を寄せられ、かつ拉致問題に関しては実績と経験もあるという点などから安倍氏の起用には妥当性がある、以上3点が主な起用の理由として挙げられる。

麻生政権下で安倍氏が閣僚として良好なパフォーマンスを収めれば、麻生長期政権への原動力となり、また禅譲への道も自ずと見えてこよう。ただ万全を期すためには、安倍氏のライバルとなる存在の影響力を事前に排除しておく必要があり、これに関しても福田首相の場合と同様、手段を問うべきではない。


以上が概要であるが、この計画は依然として非常に大きな検討の余地を残している。同志諸君による忌憚の無い活発な討論と、計画の更なる具体化、そしてその一刻も早い実現に期待するや、切である。




※ 上記の記述は全てフィクションです