「Here's to you」

第一次世界大戦が終わってまだ日が浅い、アメリ東海岸の街ボストン。1920年、この地で強盗殺人事件が起った。

逮捕された2人のイタリア移民、ニコラ・サッコとバルトロメオ・ヴァンゼッティ。

事件の当初より、彼らの容疑を裏付ける証拠は、質量ともに極めて乏しいと噂されていた。

そして何より、この2人はアナーキストであった。大戦後の混乱から未だ冷め切らぬアメリカは、反政府思想・運動に神経を尖らせていた。

要するにこうだ。政府及びその意を汲んだ警察が、思想弾圧のために無実の彼らへ罪を被せ、そして逮捕に及び身柄を拘束したのではないか。

たんなる流言として片付けるには、あまりにセンセーションでかつ説得性を持っていたこの憶測は、たちまちの内にアメリカ国内だけに留まらず世界中へと広がりを見せ、やがては国際的な助命嘆願運動を巻き起こすきっかけとなる。

余談だが、世界的な規模でこれだけ大々的に市民運動が展開されたのは、有史以来これが初めてだったのではなかろうか。

しかしその声もむなしく、1927年、両名への死刑は執行された。はじめにサッコ、数分の後にヴァンゼッティ。電気椅子によるものだった。


実際のところ、事件の詳細は今もってつまびらかではないという。


下にあげた動画は、この「サッコ・ヴァンゼッティ事件」を題材にして製作された映画「死刑台のメロディ」のテーマソングである。

わずか4つのフレーズで構成された歌詞を延々と繰り返しているだけの唄なのに、なぜか心に響く。

そして、彼らの辿った不幸な境遇と重なっていく。


「Here's To You / Joan Baez