『テロルの決算』
- 作者: 沢木耕太郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1982/09
- メディア: 文庫
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以前から、浅沼稲次郎と江田三郎という2人の政治家についての、まとまった書物を読みたいと思っておりまして。しかし私の通う大学の図書館には蔵書が無く半ば諦め忘れかけていたのですが、このたび偶然に中古で入手が叶ったので、まずは浅沼のほうから書評をしてみます。
ノンフィクションに分類される本書は、300ページ以上に及ぶ長大な分量を誇り、綿密な取材と膨大な資料調査によって、いささか書き過ぎといえる程に、浅沼を赤裸々に描写している。
実はこのノンフィクションには、浅沼のほかにもう1人の主人公がいる。山口二矢。まったき純粋な右翼的愛国心の発露から浅沼稲次郎を刺殺して、日本の戦後史に名を刻んだばかりか、右翼の間では伝説の英雄として称えられる17歳の少年である。
右翼少年と社会主義者。まるで正反対に位置する人生をそれぞれの地点から綴り、やがて彼らの人生は交錯をはじめ、物語はクライマックスの日比谷公会堂における刺殺事件へとつながっていく。
読みながらの印象が深かったのは、浅沼よりもむしろ山口二矢のほうであった。両親と兄の4人暮らし。一軒家に住み、父親は役人、母は専業主婦。兄とともに自分も大学に通う山口二矢の日常は、平凡そのものである。ふとしたきっかけから愛国運動にのめりこみ、その動機にあくまでも忠実であった二矢は、周囲の生ぬるい運動に飽き足らずそれらと決別し、結局は1人で、当時の社会党委員長を刺殺するまでに至るのである。そういった日常と非日常の対比が、より印象を深くする。
奇跡と言っていいくらいに、山口の浅沼刺殺には偶然が重なっていた。詳しくは本書に当たって欲しいが、鳥肌が立つほどに衝撃的である。一読の価値が大いにある政治ノンフィクションだと思う。